「不妊治療のために仕事を休みます」って言える?~兵庫県が進める“働く人のための支援”~
「不妊治療の支援制度があるかどうかを、
会社を選ぶときの選択肢に入れてもいいんだって初めて知りました」
そう話してくれたのは、今回一緒に話を聞いたZ世代のひとり。
結婚も、出産も、まだ具体的な予定はない。
それでも、不妊治療のリアルや企業の制度の話を聞いているうちに、
不妊治療が急に自分ごとになったと言います。
不妊治療をしながら働く人を支えるために、
企業と連携した制度づくりや支援がすでに動き始めている兵庫県。
その現場をさまざまなかたちでサポートするみなさんのお話を、Z世代と一緒に伺いしました。
通院は月に5〜6回になることも。不妊治療と仕事の両立は?
当事者以外にはなかなかイメージしにくい不妊治療。
「どれくらい通うのか」「仕事にどんな影響があるのか」__神戸で「英(はなぶさ)ウィメンズクリニック」を運営する塩谷 雅英(しおたに まさひで)理事長に医療の現場からのお話を伺いました。

—最近不妊治療を受ける方が増えている背景は?
背景には晩婚化が進んでいることがあります。特に、女性は年齢とともに卵子の数や質が低下し、30代以降になると子宮筋腫*1や子宮内膜症*2といった婦人科疾患のリスクも高まります。その結果、いざ「子どもが欲しい」と思ったときに、妊娠しにくい状況に直面する人が増えています。
また、2022年から不妊治療に健康保険が適用され、ネットやSNSでも情報に触れる機会が増えたことで、婦人科を受診するハードルが下がってきている印象もあります。
当院の場合、日曜祝日の外来にご夫婦で来院されて一緒に説明を聞くなど、男性の通院も増えていますね。
- *1 子宮筋腫:子宮の筋肉にできる良性の腫瘍。女性ホルモンの影響で大きくなり、30代以上の女性に多く見られます。
- *2 子宮内膜症:本来子宮内にあるべき子宮内膜組織が、卵巣や腹膜など子宮以外の場所に発生し、女性ホルモンの影響で増殖・出血を繰り返す病気。
—不妊治療は大変そうなイメージがあります。通院はどんな頻度やスケジュールとなりますか?
不妊治療は、月に一度の排卵のタイミングを中心に行うため、通院の回数はどうしても増えがちです。場合によっては「明日来てください」と、急な受診が必要になることも。
特に体外受精などの治療になると、月に5〜6回ほど通院が必要になるケースもあり、週に3回など頻度が高まるケースも多くあります。
—月に5〜6回ですか! 想像していたより多く感じました。
それが1回のサイクルだとして、妊娠に至るまで当院では平均して1.7回。不妊治療というのは1ヶ月、2ヶ月で結果が出るわけではなく、3ヶ月、半年、場合によっては1年、さらに2年かかる方もいます。
ですから、なかなか結果が出ない不安や焦りから、出口の見えないトンネルに入っているように感じられる方も少なくありません。
—かなり頻度が多く、負担も大きそうですね。日常生活や仕事への影響はどんなものがありますか?
治療の内容によっては、仕事との両立に悩まれる方は多くいらっしゃいます。
シフト制で急な休みが取りづらい、自分が休むと仕事がまわらないから休みづらい、職場全体の雰囲気として言い出しにくい、どこまで言っていいのか分からない、といった悩みはよくお聞きします。
また、不妊治療に専念するために仕事を辞める方がおられるのも現状です。私としては、ぜひ仕事は続けてほしいと思いお伝えしていますが、なかなか仕事と治療を両立するハードルは高いようです。
不妊治療しながらどう働く?兵庫県が進める支援とは
医療の現場の話からも見えてきた、不妊治療と仕事の両立の難しさ。
本人の頑張りだけではどうにもならず、職場やまわりの理解が欠かせないという現実があります。
そんな中、兵庫県では不妊治療をする人だけでなく、支える企業側も一緒に支援していくという取り組みを進めています。
この支援の背景や狙いについて、兵庫県保健医療部健康増進課の居内 茜(いうち あかね)さんにお話を伺いました。

—兵庫県では、不妊治療の支援を進めているそうですが、どのような内容でしょうか?
兵庫県では、2025年7月に不妊症などの支援を進めるための条例を制定し、その施策の1つとして、産業労働部と連携した『不妊治療と仕事の両立支援』に力を入れています。
—なぜ兵庫県では不妊治療と仕事の両立支援に力を入れているのでしょうか?
不妊治療当事者の方や企業への実態調査を行ったところ、当事者の方々が不妊治療と仕事の両立に困難さを抱えていることや、一方で企業側も「どう支えればいいのか分からない」という課題を抱えていることが見えてきました。
不妊症というのは誰もが直面する可能性があり、子どもを望む方々が「子どもが欲しい」と思った時に、安心して治療などに臨める環境づくりが必要と考えています。
—安心して不妊治療を受けられる環境づくりとは、どのようなものでしょうか?
相談をいただく企業からは、「不妊治療を受けながら働く社員に対して、どのように対応すればよいのか分からない」「子育てや介護に限らずに、さまざまな事情を抱える社員を支える制度を整えたい」といった声が多く寄せられています。
こうした声に対して、兵庫県では企業の状況に合わせて寄り添う“伴走型支援”の環境づくりを実施しています。具体的には、社会保険労務士など企業支援の専門家と、不妊治療の当事者団体が連携し、
- 治療と両立しやすい休暇制度の導入
- 上司や同僚が取るべき配慮や対応についてのアドバイス
- 社内理解を深めるためのセミナーの企画・実施
といった、現場のニーズに沿った支援を行っています。
—セミナーなどを実施された各企業からの反応はいかがでしょうか?
実際にセミナーを受講された社員さんからは、
- 「不妊治療の内容や通院頻度など、具体的なことを初めて知れた」
- 「今後、社員に悩みを打ち明けられても、知識を得たことで寄り添った声かけができそう」
- 「社員には安心して働き続けてほしいので、もっと社内に発信していきたい」
といった声が寄せられています。
—うれしい反応もあるんですね、これから両立支援に力をいれる企業は増えていきそうですか?
実際に理解が深まっている会社はまだ少数で、兵庫県のこのような支援を「初めて知った」という声も多いのが現状です。まずは介護や育児と同じように、不妊治療を理解してもらえるよう、広報に力を入れているところです。
もう動き始めている企業も。不妊治療を支える働き方
支援の枠組みが整いつつある一方で、兵庫県と連携しながら不妊治療と仕事の両立支援をいち早く取り入れてきたのが、株式会社デンソーテンさん。
ダイバーシティ推進課の本間 稔久(ほんま としひさ)さん、亀田 光子(かめだ こうこ)さんに、実際の取り組みについて話を聞きました。

—不妊治療と仕事の両立支援に取り組まれるようになった背景を教えてください。
もともと、育児や介護、けがや病気の治療など、仕事と生活を両立するための支援には継続して取り組んできました。不妊治療も、その延長線上にある、支援が必要なテーマだと捉えています。
育児や介護も含め、どの取り組みにも共通しているのは社員一人ひとりが自分の目標や「なりたい姿」を大切にしながら、キャリアを積み、いきいきと働き続けられる環境をつくりたい、という思いです。
—働く上で必要な支援のひとつとして捉えているのですね。まずは何から始められたのでしょうか?
不妊治療に関しては、公的保険の支援が対象になった2022年の4月頃から「不妊治療ってこういう内容なんだよ」という主旨の冊子を従業員に向けて配布することから始めました。
これは、あくまで不妊治療の一般的な知識や内容が中心でしたが、その後続けて「職場がどのような支援をすべきなのか」「同僚もサポートできるようにするにはどうあるべきか」について検討を重ね、「不妊治療との両立のために会社で利用できる制度」などを発信する冊子へと発展していきました。
—具体的にどのような制度やサポートがあるのでしょうか?
例えば「積立休暇」があります。これは有給とは別の休暇制度で、子の看護や家族の介護、難病の通院等で利用可能となるものですが、不妊治療に関しては証明書なしでの取得を可能にすることにより、通院がしやすくなるようにしています。
また、コアタイムなしのフレックス勤務やテレワーク制度もありますので、こうした制度をうまく活用しながら、1日の仕事の中で「ここからここまでは治療に充てよう」といった柔軟な時間繰りで働ける環境を整えています。
—実際にこの「積立休暇」制度を活用されている方はいらっしゃいますか?
治療名目での申告をしていないケースもあるため、正確な人数を把握するのは難しいのですが、毎年数名の制度利用があり、昨年の利用割合は男性社員の方が多かったです。
—男女問わず取得できるような、オープンな雰囲気が広がっているのでしょうか?
毎年実施している社員アンケートの中で、「不妊治療を職場にオープンに相談できるか」「上司や職場で相談できるか」という問いに対して、55%が「できる」と答えています。逆に言えば、45%はまだオープンに相談できないとも言えるので、「できる」の割合をより一層増やしていくことを目指しています。
—今後さらに力を入れていきたいことは?
まずは「相談しやすい環境づくり」です。
社内主催のセミナーを開催するなど、理解を深めようとする取り組みそのものが、「会社が応援してくれていると感じる」「この取り組みを続けてほしい」といった声につながっています。
制度を整え、きちんと伝えていく中で、不妊治療についても特別なことではなく、“普通のこと”として受け止められ、自然に相談できる職場にしていくことが大切だと考えています。
誰にもキャリアを諦めてほしくないですし、家庭のことも諦めてほしくない。
何かを犠牲にするのではなく、どちらも大切にできる働き方ができる会社を目指していきたいですね。
むすびに
不妊治療と仕事をめぐる現状や、それを支えようとする企業と兵庫県の取り組み。いかがでしたでしょうか?
今回のインタビューを通して、まだ結婚や出産を具体的に考えていないZ世代に、「不妊治療について職場で相談できそうか」という問いを投げかけてみました。

「不妊治療のために休むと言っている人を見たことがない職場では、
それって言っちゃいけないことなのかな、と思ってしまう。
でも、オープンに話している人がいる職場なら、
自分が当事者になったときも、言っていいのかもしれない」。
その言葉が示すように
不妊治療と仕事の両立は制度があるかどうかだけで決まるものではなく、
職場の理解や空気にも大きく左右されます。
兵庫県が企業と連携して進めている取り組みは、
不妊治療を特別なことにせず、「相談できる」と思える環境を少しずつ増やしていくこと。
その積み重ねが「不妊治療のために仕事を休みます」が
当たり前の社会につながっていく——
そう感じたインタビューでした。
兵庫県のプレコンセプションケア応援サイト 「プレコンはじめの一歩。」では、妊娠を考えている・いない、男女問わず、 自分の体や健康、将来の選択肢について知っておくための「プレコンセプションケア(通称:プレコン)」の基本や今日からできることが紹介されていますので、ぜひこちらも参考にしてみてくださいね。


